HIROKO SAKAI FINE ART
- Japanese Artist in San Francisco -

San Franciscoからこんにちわ!

Page4

 今日も面接が終わると、ビーシーが、フリーのオムツの特大袋をドーンとお土産に付けてくれた。
しかし、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ケーブルカー, ケーブルカー乗り場, 観光, サンフランシスコ ダウンタウン, 坂井浩子, hiroko, hiroko sakai, Japanese artist in San Franciscoこのカソリックチャリティーの事務所といえば、ダウンタウンのど真ん中。
そこからアパートメントに帰るルートには、当然、お洒落なユニオンスクエアがあったりするわけで、観光客で賑わっているケーブルカーの乗り場の横も通っていったりするわけだ。

自分で言うのはなんだけど、私もすっかり逞しくなったものだと思う。今では、そんな洒落者達で賑わう『異空間』の中でさえも、テロテロのTシャツに大入りオムツの袋を抱え、平気のへの字で通り抜けて行けたりする。
それにはかえって、『このサンフランシスコで頑張ってるんだよーん!』なんて、開き直りの境地に満足だ。

とにかくいくら恰好をつけてみた所で、シングルマムの私にとって、このフリーのオムツを手に入れた『充実感』は、何にも変え難い幸せの一つだったりするのだから。

 

 マーケット・ストリートまで出てくると、いつもの黒人の二人組が、広い歩道でタップのパフォーマンスをやっていた。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ケーブルカー乗り場, 黒人, タップダンサー, タップダンス, マーケットストリート, パフォーマンス 一人が足もとに並べたバケツでドラムのリズムをとる横で、相棒のブラックが、そのまた、どっかの工事現場からでも拾って来たようなぼろぼろのベニア板の上で、弾けるようなタップを踏んでいる。

白い歯を大きくむき出して、ドラムが無邪気にニヤリと笑う。軽快に刻むラップのセリフがかっこいい。
そんなクールなサウンドに、道行く人たちは足をとめて、周りに輪を描きながら一緒にリズムを刻み出す。

サンフランシスコの一角で、まるで、ニューオリンズの街角にでも迷い込んでしまったような楽しい幻に酔いしれる。

 

 この街を流れる時間には、人々のパワーが溢れている。
『負けないように頑張らなくちゃ』という思いが、また明日を生きる勇気になってくる。

毎日何かしら新しいことが起こってくる。
そして一つ何かを乗り越える度、それが笑顔に変わっていく。

エピソード5

 年が明けて一週間。クリスと二回目のデートの約束をした。


ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ヘイトストリート, ヒッピー

 

 あの、バタバタとした初顔合わせの夜以来、彼とは、今では殆ど毎日のようにして、電話やEメールで連絡を取り合うようになっている。
しかしまた、実際に会って話をするという事になると、基本的に、救急病棟、テレビドラマの『ER』の世界で生きる男‥。私のほうにも、ウイークデイの夜は小さなお猿が一緒にいて、また二人、外に出てゆっくり顔を合わせるといった時間の接点を見つけるのは、お互いそう簡単な物ではなかった。

そんな中、彼からのEメールで、お猿がフレッドの所に行く週末の夜に合せて、今度は二人、どこかゆっくりとした雰囲気で食事でもしないかというお誘いが入った。
即OKはしたものの、前回の初ミーティングがあれである。今回も、この男との『初デート』、一筋縄では行かないことを覚悟しておいたほうがよさそうだ。

 

 さて、いよいよ本番の当日。
時計の針が、あと十分でクリスのお迎えの時間を指そうとする頃、ちょっとした緊張を感じながら、口紅を塗り直し、鏡の中に映る自分の姿をもう一度隅からチェックした。そして、『さあ、これで用意はバッチリ!』と思った瞬間、‥ふいに電話のベルが鳴った。
今回もどうやら、運命の女神が私達に微笑んでくれることはなかったようである。
受話器の向こうからはすまなそうに話す、少し疲れたクリスの声が聞こえて来た。

「ごめん‥。実は今、バタバタ急患が入ってね。次のシフトのドクターだけじゃ回らなくて、僕も今、帰るわけには行かなくなったんだ。」ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, イエローカード, サッカー

全く、イエローカード二枚目のクリスである。

しかし、それでも少しの時間なら、様子を見て病院を抜け出す事が出来るという。
男とデートをするのに、そんな強行突破をするような思いで会おう事になろうとは、今まで、想像だにしなかった世界だ。
しかし、この機会を逃したら、また次はいつになるのか分らない。それに加えて、こんな風に、いつもバケツをひっくり返したような時間を走り回る姿には、何だか同情さえも感じて来る。

結局、その五分後には、自分のお人よし加減に呆れながら、ミュニの中にゆられていた。

 

 病院の前でミュニを降りると、また、日はとっぷりと暮れていた。
エントランスのドアを開けると、前とは違って、やけに愛想のいい黒人のガードマンが、ローリーポップをくわえた口で、『ハイ!』とにこやかに挨拶をくれた。

その思い掛けない笑顔に励まされながら、また、夜の病院のエレベーターを上がって行く。
相変わらず無気味に静まりかえるロビーに着くと、今度はバックから携帯電話を取り出して、予め貰っておいたクリスのポケベルのナンバーをうった。
『1』の番号を入れると、私が到着した合図。前回のように、へらへら私用で来ている私などが、夜間の救急患者でばたつくナースたちの手を煩わすのにはどうにも気が退けた。

 

 それからロビーで待つこと五分。

『チン!』

シーンと沈んだホール中に、大きなベルの音が響いた。思わず椅子から飛び上がり、ゾワゾワと鳥肌が蠢きたった腕を押さえながら、その無遠慮な音に目を向ける。そこには、開いたエレベーターの扉の中から降りて来る、またヨレヨレの白衣に身を包んだクリスの姿が見えた。

何だか先日にも増して、その『ぼろさ加減』には磨きがかかり、もう、殆ど擦り切れちゃってる感じだ。

しかし、こっちを向いてその顔をあげた瞬間、疲れた顔にニッコリと笑顔が浮かんだ。大晦日の夜、別れ際に触れた手の温もりが胸の中に蘇る。吸い込まれるような青い瞳に、心臓が駆け足を始め、甘酸っぱい緊張で耳の先が熱くなる。
そうして、目の前に立ったクリスと『感動のハグ!』‥と思った矢先、

「ちょっと、さっき亡くなった患者さんがいてね。今、事後処理してるとこなんだけど、今のとこ、僕の仕事は終わって休憩だから。あと何時間かは大丈夫。」

「‥‥‥!?」

ロマンティックに盛り上がった気分も、敢え無くぺちゃんと空気が抜けた。
彼はと言えば、極めて平常心の澄ました顔で、腰にぶら下げたポケベルなぞを確認しながら、

「じゃ、行こうか。」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥はあ。」

一瞬脳ミソに、ブリザードが吹き荒れた。

人の死に目という、普通の人なら、到底平常心など保ってはいられないこの状況も、彼にとっては、全く日常の一幕にしか過ぎないようだ。
しかしまあ、それも彼の職業を考えると、分らぬ気はしないでもないのだけれど。

私の中で吹き荒れる複雑な思いなど他所にして、当の本人の頭の中は、すっかり『お食事モード』に切り替わってるご様子。ごついガタイのガードマンとにこやかな挨拶なぞ交しながら、さっさともう、エントランスのドアを出て行こうとしている。

うーん‥。またのっけから付いて行くのに一抹の不安が過りまくる男である。

 

 さて、そうこうしながらドアを出て、病院の裏手まで廻って来ると、そこからはずっと長い長い下り坂が続いていた。

クリスの病院は、サンフランシスコ州立大学、UCSFの小高い丘の上にあり、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ヘイトストリート, ショーウインドウ ディスプレイ,ブティック そこから何ブロックか下りて来ると、シックスティーズのヒッピーで有名なヘイトストリートに入って行く。

その通りには、昔からそこにあった独特の時間の流れを今に刻み続けるように、自己主張の強いサイケデリックな原色の壁絵や、それに負けないユニークな店のサインたちが、ごちゃ混ぜになって並んでいる。
セクシーな網タイツに真っ赤なハイヒールを履いた巨大な足が、いったい何を売ってるのかさっぱり分らない店の頭から、ニュッとその足を組み飛び出している。
何件か先の店の入り口では、何やら怪し気な大きな目がギョロリと、道を行く若者たちを睨んでいる。

とにかく、目に入る物全てがこんな調子で、奇抜な格好の若者たちでごったがえすストリートを行きながら、思わずキョロキョロ目が飛んだ。

「大丈夫?迷子になっちゃダメだよ。」

つかず離れず、半歩前を歩いて行くクリスが、時々後ろを振り返っては優しく笑う。その穏やかな瞳に、ほんの少しのバツの悪さと不思議な懐かしさを感じた。

 

 ヘイトストリートを横に折れて、更にそこから何ブロックか入ると、今度はお洒落なレストランやカフェが並ぶ、雰囲気の落ち着いた通りに出た。
軒を連ねる陽気な明りが、もうすっかり日も落ちた風景を優しい色に染めている。
あたり一面に漂う美味しい匂いと、食事を楽しむ人々のざわめきに、胃の底がキュッと摘ままれた。

「さあ、着いた。ここでいい?」

今日、クリスが案内してくれたのは、こじんまりしたアーリーアメリカンスタイルのレストランだった。
表まで賑やかにはみ出したテーブルでは、溢れかえるサンフランシスカンたちが、美味しいお皿を摘みながら自家製のビールを楽しんでいる。
そんな華やかな雰囲気に、少々場違いな圧倒感を感じて入り口で足を止めた私の為に、クリスが重たい木のドアを開けてくれた。

「サンキュー‥。」

恐る恐る、その背高ノッポのドアの中に足を踏み入れてみると、これまたホール中が、肌の色から髪、目の色まで、何ともカラフルな人たちで埋まってブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, バー, レストラン, グルメ, ナイトライフ, バーカウンターいた。

白人、黒人、ヒスパニック、アジアン、その他諸々‥。
『人種のサラダボール』サンフランシスコにすっぽりとはまり込んだ自分を実感する。

そんな灌漑に浸っている暇もなく、入り口に立った私達を、ヒスパニックのウエイターがテーブルまで案内してくれた。

人ごみを掻き分けながら、昔、トム・クルーズがボトルを回していたようなバーカウンターの前を通り抜け、その奥にたった一つだけ空いていた丸テーブルの前まで来ると、ウエイターは、手に持っていたメニューをその上に置いた。

 

 席に付くと、クリスと私の間にはしばしぎこちない空気が漂った。
そもそも、この丸テーブルというのがどうにも落ち着かない。
角があるテーブルと違って、この丸い、相手との境界線がよく見えないオープンさが、初めてのデートに余計な緊張感を膨らませる。
それに今、改めてこうしてクリスの姿を前にすると、その明るい髪と青い瞳に、やけに自分との違いを感じて来る。おまけに肝心の『英会話』も、緊張で強ばる頭の中では、どうにか教科書にあったセンテンスを辿りながら繋いでるような状態で、どうにも腰の落ち着く場所が無い。

しかし、最初のほうこそ『借りてきたネコ』よろしく不器用なスタートを切った二人の会話も、周りの雰囲気に慣れるにつれて、サイクルが噛み合うようになって来た。そうしてテーブルに料理が運ばれて来る頃には、もう、お互いにもすっかり慣れて、前回の初ミーティングとはうって変わった笑いっぱなしの時間が、小さな丸テーブルの上に流れ始めた。

「僕はね、日本のお寺に入って、坊主の修行をするのが人生最大の夢なんだ。」

チリ・コンカーンとシーザーサラダをごちゃ混ぜにしたような不思議な料理をつつきながら、クリスが突然真面目な顔で、熱っぽく語り出す。
本気なのか冗談なのか、そのわざとらしく作った真剣な瞳につい吹き出し、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, デート, ロマンス, ワイン, グルメ, キャンドル, シャルドネ, 外国人とロマンス ブロンドを丸めた形のよい頭で一休さんをする、変な『外人』の姿を想像する。

また笑いが止まらない。

それから話は尽きることなく、アメリカ人の宗教観から『シンプソン一家』の謎に至るまで飛びまくり、全く、超高速で、世界一周旅行に飛び回るような時間が行き過ぎた。

とぼけた言葉を連発しながら、時折ふっと、クリスが、その冗談でかけてるようなでっかい眼鏡を外して目頭を押さえる。これは反則である。光の具合で色が変わる深い瞳をふせながら、『床屋に行く時間も無い』とでも言ってるような伸び放題のブロンドを面倒臭げに掻き揚げる横顔に、思わず心臓がドキリとする。

 

 オーダーし過ぎた山のような料理もいつの間にかきれいに平らげて、笑い疲れてレストランのドアを出る頃には、通りはもう、すっかり夜の帳がおりていた。

薄暗い通りに出ると、クリスがふっと私の手をとった。
かじかんだ指先が、柔らかな温もりに包まれる。

そこからは、まるで初めてデートをする学生のように、病院までの坂道をただ二人手を繋いでゆっくりゆっくりのぼって行った。キスもなし、ハグもなし。ただ、お互いの手のひらの温度を感じながら、来た道をテクテク歩き続けた。

 

「また、会えるかなあ?」

アパートメントに向かう車の中、ハンドルを握って前を見つめるクリスがポツンと言った。
優しい沈黙をやぶる掠れた声に、それまで無意識に数えていた街灯から目を離し、ただコクコクと小さく頷く。

「また連絡する。」

エントランスの前に車が着くと、カーシートを解く私に向かって、クリスがほんの少し体を傾けた。どちらからともなくハグを交す。頬にふれた大きな肩から微かに柑橘系のコロンが香った。

私が車を降りると、クリスはまた、バタバタと病院に戻って行った。真っ白なカムリのテールライトが、一ブロック先の角を左に曲がって行く。点滅する黄色のランプをぼんやり見送りながら、胸の中に不思議な淋しさが広がった。

さて、カボチャの馬車は行ってしまった。明日はまた、お猿がフレッドの所から戻って来る。今日はゆっくり睡眠をとって新しい明日に備えよう。これから迎える毎日を、ワクワクした輝きに塗り替えて行けるように。

<< Page 4  >>

© Hiroko Sakai Fine Art : All rights reserved