HIROKO SAKAI FINE ART
- Japanese Artist in San Francisco -

San Franciscoからこんにちわ!

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エピソード23

 日曜日の朝早く、クリスが大きなトラックを運転してアパートメントまで来てくれた。

本来なら、いよいよ今日は、クレイグの家へとムーブインする予定になっていた。
しかし今ではその状況もすっかり変わり、今日はクレイグにその事情を説明し、既に彼の家に移している殆ど全部の私の荷物をクリスと二人で引き取りに行く。


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 フリーウエイに車が入ると、緊張で体が少し震えた。クレイグの顔が頭に浮かびずーんと気分が重く沈む。
急に黙り込んだ私を見て、『大丈夫だよ』と横からクリスがウインクをくれた。

「君は何も話さなくっていいからね。僕が話す。第三者の僕が話したほうが、感情的にもこじれなくっていいと思うんだ。‥あ、もちろん君がそれでかまわなければの話だけどね。 」

かまうもなにも、そうしてくれるとどんなに助かるだろう。
でも、そんな風にクリスばかりに尻拭いを頼んでいいのかしら?

心の中で暴れまわる葛藤を押さえ込むように膝の上で握り締めた手の上に、大きな手がふわっと重なった。

「僕は英語は得意なんだ。」

心がふっと軽くなる。

 

 いよいよクレイグの家に到着すると、クリスはトラックを注意深くガレージの前にとめた。そして車を降りた後は、最初は私が前に立って玄関のステップを上って行った。

いざドアの前に立つと、胃がひっくり返りそうな緊張にこのまま真直ぐ回れ右をしてダウンタウンに引き返したい衝動に駆られた。でもすぐうしろにはクリスがいてくれる。大きく息を吸い込むと、爆弾のスイッチ‥じゃなくて、玄関の呼び鈴を一気に押した。

少しの沈黙の後、目の前のドアがさっと開いた。
中には『ウエルカム!』と大きく両手を広げたクレイグが立っていた。心なしか、顔にはまるで『もうどこにも行く所が無いだろう』と言わんばかりの勝ち誇った笑顔が浮んでいるようにも見える。
そんな彼も、直ぐに私の後ろに立っているクリスに気がついた。
満面の笑顔が一瞬曇る。
覚悟は決めて来たものの、そうして強張る彼の顔を見ると、また胃が飛び跳ねて暴れ出した。

脳みそが鷲掴みにされるようなプレッシャーを感じながら、もはや口を出てくる挨拶の言葉さえも自分で何を言っているのかわからない。そうこうしていると、後ろから肩が柔らかく掴まれ、私の体は大きな背中の後ろに引っ張られた。
目の前で、早口の英語が飛び交い始める。
まるで、今まで吹替えで見ていたアメリカ映画の音声スイッチが、急に英語のオリジナル版に切り替わってしまったようだ。いつも近くに感じるクリスが、今はクレイグ相手に『分からない言葉』を話している。急に彼が見知らぬ異邦人になってしまったような不安に、小さく胸がざわめいた。

「彼女の幸せが一番なんだから、自分は状況がどう変わろうとノー・プロブレムだ。かえってこれから彼女の生活がどうなって行くのかが心配だね。」

何が起っているのかよく分らないままクリスの背中ごしに会話の成り行きを見ていると、突然クレイグが声を張り上げ強く吐き捨てるように言うのが分かった。
驚いて声の方向へ目を向ける。
そこでは忌ま忌ましそうに引き攣った瞳が私の顔を睨んでいた。
刺すような視線に思わず体がブルっと震え、後ろからぎゅっとクリスの手を握ると、『心配しないで』と言うように、柔らかな手がポンポンと腕をたたいた。

話がすむと、あとはクリスと二人でただテキパキと持ち帰る荷物をトラックの荷台に積み込んだ。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ベッドルーム, お洒落なベッドルーム, キルトベッドカバー

私が移る予定だった部屋は、もうすっかり新しい住人の為に用意が整えられていた。

ベッドにはちゃんと新しいキルトのベッドカバーがかけてある。窓にも柔らかな生成のカーテンが吊るされ、ドレッサーの上には、その日からすぐに生活が始められるように、ティッシュやコットン、タオルなどが可愛らしくセットしてあった。

『クレイグも彼なりに、私の新しい生活に心を砕いていてくれたのだ。』

一瞬ズンと重い物が心に落ちた。自分の未熟さがもたらしたこの結末に、何だかとても申し訳なく、そして悲しくなった。
掴み所のない感情の枝葉が織り成す迷路に落ち込んで、こんな風に人を巻き込みながらその人の気持ちを踏み躙るようなお粗末な解決の仕方しか出来なかった自分の未熟さに腹がたった。

しかし、どちらにしてもクレイグの中にあった色んな期待を考えると、これから共にビジネスライクな共同生活を送って行くのは到底無理な話だっただろう。
全ての荷物をトラックに積み終えると、複雑な思いを抱えながら彼の家を後にした。

 

 ダウンタウンのアパートメントに戻ると、それから最終的に契約の期限が切れるまでの約一週間、段ボール箱の山に埋もれながらそこでの最後の時間を過ごした。
そして一月の最終日、いよいよホテル暮しをするのに必要な荷物以外はストレージに預け、ティブロンのホテルにチェックインした。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ティブロン,  ティブロン ホテル, ロッジ, マリーン, 観光, ベイエリア

ホテルに移った最初の夜は、さすがに見慣れぬ空間の中で自分が迷子になったような心細さに襲われた。

今まで過ごして来た生活の欠片が一つも無い空間。
綺麗にコーディネートされた化粧水のボトルは他所々しく、キッチンの蛍光灯の明りには妙な苛立ちが沸き起こる。

しかし、幸か不幸か、元気を持て余すお猿が一緒にいては、いつまでもそんな塩で萎んだ蛞蝓のように落ち込んでばかりはいられない
気持ちも落ち着いた次の日からは、とにかく彼女の手を引いて、ホテルの周りの探索を始めることにした。

 

 ティブロン生活一日目の朝。
ホテルから一歩足を踏み出すと、まずは目の中にポーンと、どこまでも続く青空が飛び込んで来た。緑の丘に咲き誇った満開の桜が、遠くの風景に柔らかなアクセントを添えている。

潮の匂いの混じった空気を胸いっぱいに吸い込んで、『うーん』っと大きくノビをする。『かちっ』とスイッチがオンになる。
今まで燻っていた憂鬱が、頭の上にどこまでも広がる澄み渡った空の中にすっかり昇華されて行くような気がした。

ティブロンの街は、これまで何度かクリスと一緒に歩いた事があった。しかし、こんな風に一人で歩いてみるのはこれが初めての経験だ。
よく知っていたつもりのメインストリートの表情が、今日は何だか違って見える。

 

 スペイン語で『鮫』という意味を持った土地。

大昔、まだアメリカが『古き良き時代』であった頃、東から引かれて来た鉄道の最終点がここに置かれ、人々が街をつくった。今もそのレトロな街並には、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ティブロン, マリーン, ショップ, レトロ, ベイエリア ショップ, お洒落な店まるで西部劇のセットからそっくり抜け出して来たような、昔のままの雰囲気が静かに残されている。

開拓時代の建物を象った店の入り口では、人の形をした馬どめのリングがお客さんを出迎えている。

ついその先の角からは、ボンネットを被ったご婦人たちが、華やかに微笑みながら馬車を下りて来る幻をみる。

ここにはそんな時間を前に進める事など忘れてしまったかのようなのんびりとした風景が、美しい海を背景に佇んでいる。


船着き場までやって来ると、海に臨んだこんもりとした緑の丘に、絵本の挿し絵を見るように、可愛い家たちが引っ掛かるようにして建っているのが一望できた。
柔らかな芝生の絨毯が敷き詰められた海岸線のベンチでは、おじいちゃんが鳥たちと日なたボッコを楽しんでいる。時折、ヨチヨチ歩きのベビーを連れたママたちが、日溜まりの小道をゆっくりゆっくり通り過ぎて行く。

ティブロンという土地は、マリーンの中でも、昔から変わらない素朴な時間の流れの中で、人々がのんびりと海をみながら暮らす場所なのだ。

小さな新しいテリトリーの散歩を楽しんだ後は、今度は大通り沿いの石畳の歩道をゆっくり歩いて戻って来た。

途中、スーパー、銀行、郵便局、それにコインランドリーも見つけた。 生活に必要な物は全部歩いて三分以内の距離にある。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ヨットハーバー, ヨット, マスト, 海, マリーン, ティブロン, サルサリート, ベイエリア, サンフランシスコ湾, レジャーホテルの部屋には大きな冷蔵庫付きのミニキッチンもあって、クリスの計らいに感謝した。

案外最初の不安のわりには、ここでは普通に暮らすように時間を過ごしていけそうだ。

 

 今また一つ、私の人生に隠されていた物語のドアが開く。

このティブロンでの一ヶ月という時間の中、これからはダウンタウンの暮らしのように小さな箱に閉じこもってばかりはいられない。
生活に必要な物はほとんどホテルの外にある。ホテルの中では毎日色んな人たちと話しを交わす。
今までいた場所から外に出て、否応無しに自分を前に押し出して行かなければいけないステージの上に立った。

まずはとにかく、今日はぐっすり眠る事にしよう。

明日からはまた、何が始まって行くのだろう。
足を前に踏み出し続けている限り、全ては前に進んで行く。

エピソード24

 Time flies.
ティブロンに来てから、もうあっという間に二週間が過ぎた。

子猫のように体を縮めて怯えていた初日の不安はどこへやら、今ではすっかり、このメイドサービス付きのホテル暮らしに甘やかされて、どっぷり伸びきった私がいる。


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シーツは毎日、ピーンと糊の効いた清潔な物と取り替えてくれる。お猿が床に散らばした紙屑も、昼には魔法のようにきれいに掃除されている。
ああ、幸せ‥。
これではダウンタウンのアパートメントに戻る時には大変だ。うーん‥。

 

 まあ、今でこそ偉そうにそんな暢気なことも言ってられるのだけれど、やっぱり最初のうちは大変だった。

ホテル暮らしの状態では、洗濯をするのにもいちいち大荷物を抱え、大通りを渡った所にあるコインランドリーまで行かなければいけない。
初めて使うその巨大なランドリーマシンの使い方がよく分らずに、機械にくっ付いている『英語』の取り扱い説明を、辞書を片手に端から読んでみたりもした。

またホテルの部屋で、家にいるのと同じ気分でパンツ一丁姿のまま昼寝をしていたら、留守だと思ったメイドが急にどかどか入って来て、掃除をしようといきなり布団をひっぺがした‥。

こんな『恥ずかしくて口にするのもためらわれるような失敗を並べろ』と言われたら、自慢じゃないけど、百科事典のシリーズ分くらいは軽く本棚に並んでしまう。
優雅なホテル生活も、裏を返せばこんな間抜けなハプニングの連続だったりするのは私の場合だけだろうか?

しかし、『慣れ』というのは頼もしい物で、最初はストレスの源でしかなかった毎日の不器用な驚きたちも、時間の経過とともに、いつしか新しい生活に振り掛けられるスパイスとして楽しみ始めた自分がいる。

 

 さて、ティブロン生活の始まりで慣れるのに大変だったことの一つに、お猿のデイケアへの送り迎えがあった。それには何とフェリーを使って、毎日ティブロンからサンフランシスコまで湾を渡って二往復する事になった。

観光気分ならいざ知らず、この初めてのフェリー体験、最初はなかなか勝手が掴めずに苦労した。
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最初は船に乗るチケットさえもどこで手に入れたらいいのかさっぱり分らなかった。

船の時間も朝と夕方の便だけしかなく、午後の最終便に乗り遅れたりしようものなら‥、それはもう、想像したくもないような大変な事になってしまう。

しかし、そんな事も慣れるにつれて、このサンフランシスコ湾のクルーズは、毎日の楽しみに変わって行った。

 

 毎朝早い時間、姫林檎を一つ手にもたせたお猿をストローラーにのせてホテルの部屋を出る。大通りを渡り、まだ人の姿も疎らな石畳の歩道まで出て来ると、そこからはゆっくり、小さな手を引きながら、船着き場まで歩いて行く。途中、大きな犬を連れてジョギングをして行く人たちが、ヨチヨチ歩きのお猿を見て、『ハイ!』と爽やかな挨拶を投げ掛けてくれる。

船着き場までやって来ると、フェリーの到着を待ちながら、お猿と二人芝生のベンチに腰かけて、そこらに群がる人懐っこいブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 子供, 女の子, ハト鳥たちにポケットのビスケットを振る舞う。

カモメが群れ飛ぶ早朝の波止場にはまだ人の姿もなく、停泊する沢山のヨットのマストたちが、カコーンカコーン‥と澄み切ったサウンドを奏でている。

 

 一時間に一度、フェリーが船着き場に入って来る。
その船の到着の時間が近付くにつれて、ゲートの周りにも人が集まって来る。

このティブロンのフェリー乗り場、朝には、そののんびりとした田舎の風景には似合わない、シックなキャリアスタイルに身を固めた人たちが列を作る。
午前中にここを出航するフェリーの便は、湾を渡ると、サンフランシスコのビジネスの中心地であるファイナンシャル・ディストリクトのフェリー・ステーションに入って行く。その金融街で働く人たちが、このフェリーを、ティブロンからの通勤の足に使っているというわけなのだ。

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そんな乗客で埋まったフェリーのキャピンは、まるでアメリカ・キャリア社会の縮図を見ているよう。

しかし、その中に見るこの我が身の姿といったら‥。

仮住まいのホテル暮らしに持って来たヨレヨレのジーンズに、着古しの真っ赤なGAPのトレーナー。
仕上げにはワイルドなお猿が大五郎状態でくっ付いて‥。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, フェリー

二人が放つオーラには、ただでさえベビー連れなんて、増してやアジア系なんて殆ど皆無の船内では、心なしか、周りの乗客の頭の上に『?』のマークが飛んでいる。

‥まあだからと言って、別にこのフェリーの中で婿捜しをしているわけではないのだから、お天道様は許してくださるにちがいない。

 

 フェリーがティブロンの小さな船着き場を出航すると、それからサンフランシスコまでは二十分程の航海が楽しめる。

青く深く広がる海原の面に、バシャバシャと二本真っ白な飛沫の尻尾を描きながら、船は悠然とサンフランシスコ湾の中を進んで行く。
遠くの方には、マリーンとシティーを陸路で結ぶゴールデンゲートブリッジが、頭を霧の中に隠しながら、オレンジ色の美しい姿を海の上に浮かび上がらせている。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, アルカトラス, アルカトラス刑務所, サンフランシスコ湾, フェリー, ベイエリア, 観光,

ブリッジが後ろに小さくなると、今度は荒んだアルカトラス刑務所の廃虚が残る小さな島が見えてくる。
あの、アル・カポネも収容されていたという、昔、沢山の憎しみや哀しみがぎゅっと詰って動いていた過去の空間のすぐ横を、今はこうして、幸福な人たちを乗せたフェリーがのんびりと行き過ぎる。

そんな航海を楽しみながらサンフランシスコに到着すると、そこからはチャイナタウンの坂を抜けるバスに乗り、お猿のデイケアまでたどり着く。

彼女を預けた後はまたフェリーに引き返す。
しかしティブロンまで戻るフェリーに乗るのには、今度は今来たファイナンシャル・ディストリクトのフェリー乗り場ではなくて、それより北の、フィシャーマンズ・ワーフのフェリー乗り場へ向わなければいけない。
サンフランシスコからティブロンに戻るフェリーは、朝はフィッシャーマンズワーフ、夕方はファイナンシャル・ディストリクトから出ているのだから、間違いないようにしなければまたとんでもない事になってしまう。

 

 フィシャーマンズワーフからティブロンに向かうフェリーも、やはり一時間に一本の割合で港を離れる。
最近ではフェリーの出航を待つ間、港に面したバーガーショップで軽い朝食を取るのが日課となった。

シックスティーズのダイナーの雰囲気をそのまま残したバーガーショップ。観光客で毎日賑わうフィッシャーマンズワーフの中心にありながら、朝はその中途半端な時間の為か、いつ行ってもお客さんで混雑している事がない。
朝からかかる、気だるいロカビリーのダンスナンバーをBGMに、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, フィッシャーマンズワーフ看板, 観光, フィッシャーマンズワーフ濃いコーヒーを啜り、ただぼーっと港を行き交う船を眺めて時間を過す。
何日か続けて通う内に、もう中のスタッフたちとはすっかり友達になった。

ドアを入って席に着くと、何を言う前から、ぱりっと白いシャツに蝶ネクタイを締めて、腰にはピシッと長細いエプロンを巻いたウエイターのジェフがコーヒーをテーブルに運んでくれる。

「おはよう。天気いいね。」

「うーん、でもまあ、あんまり毎日代わり映えしないね。今日は何か特別にする事でもあるの?」

何でもない平凡な会話の裏側が、居心地のよい一日の始まりで満たされる。

オープンキッチンのカウンターの中では、コックのエリアスが毎朝飽きずに玉子とベーコンを焼いている。ベーコンがカリカリに焼ける匂いが、寝ぼけ眼の胃袋にカウンターパンチを効かせてくれる。
出来上がったお皿をジェフにバトンタッチした後は、次は私のお皿を作る番。
注文のビルを確認すると、彼は私に目線を向けて戯けた様子でスペイン語で何か言った。
最近では、注文した料理に添えて、お皿の片隅にプチトマトやソーセージといった可愛い『おまけ』が付いて来るようになった。

船に乗り込む時間が近付くと、観光客の流れに乗りながら、防波堤に沿ってゲートまでゆっくり歩いて行く。列に加わり搭乗開始を待つ間、時々日本語が耳に飛び込んで来る。懐かしいサウンドに目が走り、ジッとその顔を眺めてしまう。
そこにある空気の中に日本を探す。

彼らは日本のどこから来たのだろう?そしてまた、どこに帰って行くのだろう?
私もいつかはお猿を連れて自由に日本に帰れる時が来るのだろうか‥?

胃の底がクッと小さくへこむ。

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