HIROKO SAKAI FINE ART
- Japanese Artist in San Francisco -

San Franciscoからこんにちわ!

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エピソード20

 いよいよまた、年が代わり行く時間がやって来た。
アメリカで迎える静かな一年の終わりも、今年でもう三回目。

まあ『静か』とは言っても、それはただ日本のような伝統行事が無いだけで、毎年何かしら、終わり行く年を締めくくり、また新しい年を迎える準備をする出来事は起って来る。

去年の大晦日には、初めてクリスと顔を合わせた。
それから開けたこの一年、たくさんの思い出がそこに産まれた。
初めて握手を交した手の温もりが、たった昨日の事のように感じられる。そしてまた遠い昔の記憶にほどけていく。

無数の果無い記憶の欠片たちが時間の流れにのりながら、私の宇宙にちりばめられていく。


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 さて今年の大晦日は、何とあのクレイグと、お猿を連れてカーメルまでの一泊ドライブ旅行をする羽目に陥った。

十二月始めの初顔合わせ以来、この半月の間、彼とは主にEメールを通してお互いの状況を話して来た。そうして様子を見て行く内に『これは何となく大丈夫かな』という気がして来た頃、実際彼の家を見せてもらい、そしてそれからまた暫く迷いに迷った末、結局ついにクレイグの家に入居する事に話を決めたのだった。

正確に言うと、今まだ現在のレンタルオフィスに一ヶ月前の退去届けを出さなければいけないので、実際彼の所に移るのは再来月の二月以降のこととなる。

一旦そうして話が決まると、掃除などの家の仕事の分担といった具体的な話が少しづつ話題に上るようになってきた。そんな話を進める内に、クレイグが、私が間借りを開始するのに当面必要とされる家具たちを、カーメルに住む彼の両親の所から借りて来ようと言い出した。

最初この計画を聞いた時には、正直、かなりの躊躇があった。
いくらこれから間借りをして一緒の家で暮して行くとはいっても、大家との一泊旅行だなんて、やっぱりちょっといただけない。
しっかり『×イチ』入ったこの身でも、厚かましくも言わせてもらえば、これでも『また』、れっきとした『嫁入り前の娘』なのである‥のかな?

しかしまあ、よくよく彼の話を聞いて行くと、ご両親の家のお隣には彼自身の家もあって、『一緒にステイしても、ちゃんと独立したプライベートな空間は確保出来るから。』という事だった。 それにまあ、私の新生活に使う家具をお借りしに行くわけなのだから、そうそう嫌だと言ってばかりもいられない。

結局、こうして最後には、半ばクレイグに押し切られるようにして今回のカーメル行きはスタートした。

 

 カーメルという場所は、映画『フォレスト・ガンプ』のモデルとなったレストランもある海岸線の観光地モントレーの隣にあって、いわゆる、お金持ちがゆったりと住む豊かな地域になっている。

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正直言って私自身、この芸術の街カーメルには、前々から密かな憧れを持っていた。

だがしかし、実際こんな形で訪れる機会が来ようとは。
予測のつかない運命の気まぐれさ加減には、感謝すべきか迷惑すべきか‥。

 

 カーメルへと向かう当日。
朝早く、クレイグが大きなレンタルトラックを運転して、お猿と私をピックアップに来てくれた。

「おはよう。用意は出来てる?」

「おはよう。早いね。」

朝の早い時間だというのに、不自然な程に爽やかな笑顔を浮かべるクレイグと挨拶を交した後は、アクビをかみ殺しながら、運転席と助手席の間にドンとチャイルドシートを据え付けて、その中にお猿を座らせると、自分もさっさと助手席に乗り込んだ。

私の重い気持ちなどどこ吹く風で、お猿はとってもご機嫌だ。

そうして用意が整うと、早速トラックはカーメルに向けて出発した。

 

 いざ街を抜け出して、まだ車の流れも少ないフリーウエイをトラックがスピードを上げて走り出すと、それは思いの外快調なドライブとなった。
スコンと晴れ渡った空の下、全開の窓から吹き入る風にロックのボリュームを大きく上げる。チャイルドシートの中では、お猿が大きく身体を揺すりながら、リズムを刻んでもがいて‥‥いや、踊っている。

フリーウエイをしばらく行くと、窓を通り抜ける空気の匂いが変わった。

草の匂い、土の匂い‥。遥か遠くの空に溶け行く小麦色の草原で、牛たちがのんびり草をはんでいる。
思い切り大きな深呼吸をする。
広大な自然にかけられた魔法で、出発前のぎこちない空気も、優しい笑顔に塗り替えられていくような気がした。

二時間程フリーウエイを走った後、車は右に逸れてカーメルへと続く出口を降りた。

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この世のすべての美しい言葉を集めてもまだ語りきれない壮大な海岸線の風景に抱かれ、しばしの間現実を忘れる。

海岸線をしばらく走り、最後にトラックは、真っ白な砂浜に臨んで立つ大きな家の門の中に吸い込まれるように入っていった。

 

 エンジンの音が止まると同時に、家の中からは待ちかねたように、クレイグの両親が出迎えに顔を出してくれた。

今はもう、美しい海を眺めながら静かなご隠居生活を楽しむお二人。
昔はドクターをしていたという朴訥なお父さんに、これまた昔は女優をしていたという見事なプラチナブロンドの髪をしたお母さん。二人で一緒に歩いた長い長い時間が素敵なハーモニーを奏でている老夫婦の姿がそこにあった。

それぞれがクレイグと大きなハグを交し、そしてトラックの横に立っている小さなお猿と私の姿に気が付くと、これまた顔中を皺クチャにして微笑みながら、この『一人と半』の客人を、まるで古くから知る友人のように暖かく家の中に招き入れてくれた。

 

 一通り挨拶がすんだ後は、まずは荷物を解くために、客間のある離れに通された。
今回は仕事の義務のようにして、クレイグについて、殆どカルガモ状態でこのカーメルまでやって来た。しかし、実際ここについてからは見る物全てに圧倒された。

玄関に足を踏み入れると、そこはもう黄金時代のハリウッド映画の世界だった。

エレガントに装飾されたホールを右に折れて、細かいカットグラスの細工の入った大きな一枚硝子がはめ込まれたドアを通ると、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, カーメル, 贅沢な家そこからは建物に沿って、細くて長い階段状の屋外通路が下りていた。
竹の生垣で仕切られた通路には、まるで山林の遊歩道を行くような安らぎに満ちた木漏れ日が落ちている
階段の一番下は、どうやらまた家の中に通じているようだ。

ドアを出ると、ひょいとクレイグがお猿を肩車してその坂を下り出した。小さなボストンバックを持ってその後に続く。
私たちについて、お母さんがとても可愛がっているという大きなドーベルマンのベルも、まるで道先案内でも務めるように一緒に坂を下りて来た。

客間のドアは、坂を途中まで下った所にあった。
それは一見、まるで古びたキャンプ場のバンガローにでもあるような素朴な木の造りになっていて、そのポッテリとしたノブに手をかけると、何となく腰を落ち着ける場所を見つけたようでほっとした。

しかし、そのドアを開けるや否や目に飛び込んできたのは、もはや私の一瞬の安堵などせせら笑われてしまいそうな、これまた贅沢でゆったりとした異次元の空間だった。

海に向かって壁一面に張られたガラスの出窓から、美しい海岸線の風景が一望できる。モダンな三角錐の暖炉を真ん中に据えて、イタリア調に趣味よくコーディネートされた居間の奥には、総大理石張りのジャグジーバスのついた寝室が二つもあり、そこにはそれぞれ、真っ白なレースのカバーが掛かるふっくらとしたキングサイズのベッドが置いてある。バーベキューパーティーも猶にできる広いデッキの角からは、メイドルームへも行き来でき、またそれでさえもが、ダウンタウンの私の部屋と同じくらいの広さがある。

うーん‥。
今全く、このサンフランシスコの『メイドルーム』の家賃にも途方に暮れる毎日を送る私が、果たしてこんな所でこんなことをやっていてもいいのだろうか?

「ちょっとママたちと話す事があるから、荷物解いたらここで待ってて。僕は隣にある自分の部屋にステイするから、君たちはここを自由に使ってくれていいよ。」

客間の説明を一通り終えると、クレイグはベルを連れて、そそくさと坂を上って行った。

さっきからお猿は、スプリングのきいたベッドによじ登り、大喜びで奇声をあげながらトランポリンを楽しんでいる。私もやっとクレイグから解放されて気分も少しリラックス。解きかけの荷物は放り出して、お猿と一緒にベッドの上に飛び乗った。

まあいろいろ考えたところで、同じ時間を過ごすのだったら、この際、思いっきり堪能させて頂かなければ損である。
私は今、憧れのカーメルにいる。ここにいる少しの間、現実の時間は鞄にしまって硝子の靴を履いてみるのも悪くない。

 

 コン、コ、コン‥コン、コン‥

フカフカのベッドの上で、子犬のようにお猿とじゃれあうこと半時間。外からドアがノックされた。

「大体何を運ぶかは今ママと話して来たよ。ベッドは確保したし、机とドレッサー、後はスタンドライトといったとこかな?これから海側のメインリビングで皆でランチをとるから出ておいで。もう荷物は落ち着いた‥?」

手にしたメモを見ながらそこまで言うと、ドアを開けた私を見て、クレイグがプーッと吹き出した。
ハッとして自分の姿を振り返る。
ああ‥。お猿と我を忘れてはしゃぎ過ぎ、髪はボサボサの爆発状態、鞄もまだリビングの床にドンと開いたまま、中身がそこらに散乱している。

「君たち一体、何やってたの?」

『しまった!』と慌てまくる心の動揺の上に極めて平静を装いながら、

「ああ、大丈夫よ。荷物なんて後でも整理出来るから。」

澄ました顔を繕ってぐいっとお猿を引っ付かむと、手櫛で髪を整えながら、階段を下りて行くクレイグの後について部屋を出た。

クレイグの背中が笑っている。お猿もつられて‥わけも分からないくせに笑い出す。大きな笑い声のエコーの中で、何だかバツの悪いような楽しいような‥。トボトボと階段を下りて行きながら、いつの間にか私も笑っていた。

 

 下りて行く階段の終点は、またレトロな細工のされた硝子ドアのついた、母屋のメインリビングの入り口となっていた。

中に足を踏み入れるなり、すかさずベルがソファの陰から飛びついて来て、ドンと無遠慮にそのぶっとい前足を私の胸にかけたかと思うと、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ドーベルマン, 犬生暖かい舌で顔中をベロンベロンとナメ出した。

ついさっき会ったばかりにもかかわらず、これ程までに旺盛な愛情を私達に示してくれるベル。ドーベルマンにしてはとても大きな体つきで、こうして立つと、軽く私の身長程もある。

穏やかな顔付の首には細い金のネックレスをかけ、見るからに『普段からいい物を頂いています』と言わんばかりにコロコロと美しい毛づやをしている。

最初はベルが近寄る度に、顔を強ばらせながら私にピッタリくっ付いていたお猿も、この超博愛主義者のベルの熱烈歓迎振りには直ぐに打ち解けてしまったようだ。数分もたたないうちに、もうこの半人と一匹は、同じ目線で、仲良くその広大なリビングルームを駆け回り始めた。

太い一本柱に区切られた奥のダイニング・コーナーでは、きれいにセッティングされたテーブルを挟んで『あーでもないこーでもない』と何やら真剣な面もちで話をするお父さんとお母さんの姿が見えた。

「ニューイヤーのパーティーの、メニューの相談をしているんだ。」

後ろからクレイグが、小さな声で教えてくれた。

「ママは、パーティーをアジアン・テイストでコーディネートしたいんだって言ってた。今日のランチもそのための試食スタイルで作ってるみたいだから、後でシャパニーズの君の意見も聞きたいなんて言ってたよ。」

‥うーん。これ程のお宅のホームパーティーに、私の意見など烏滸がましい。
私が提案出来る日本のおご馳走なんていったら、『豚カツ』だとか『すき焼き』だとか、所詮そんな庶民的な物が精一杯。‥ま、それはそれで私のおご馳走には違いないのだけれど。

お猿はさっきからベルについて、ヨチヨチ夢中で隠れんぼを楽しんでいる。このとてつもなく広い空間の中では、クレイグが前に腰を下ろしたフルサイズのグランドピアノでさえ、玩具のように小さく見える。

取り合えず私もダイニングからは少し離れて、彼らの美味しい会議が終わるのを待つ事にした。

スクリーンの女優を気取りながら、フンワリとしたスエードのソファに腰を下ろす。
二階の高さまで吹き抜けたガラスの壁を透して、真っ白な砂浜が見渡せる。

ああ、今日もいいお天気だ。

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