HIROKO SAKAI FINE ART
- Japanese Artist in San Francisco -

San Franciscoからこんにちわ!

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 次の朝目が覚めると、もうベッドの隣は空っぽだった。
何やら上の階にあるキッチンから、タマゴとコーヒー、ベーコンの焼ける、三拍子揃った素晴らしい匂いが流れて来る。

『ああ、しまった!』

大急ぎでベッドの足下に落ちていたクリスの大きなシャツをひっかけて、まだ少し痺れた頭を抱えながら階段を上ると、

'Good morning, sweetheart'

私の足音を聞いて、キッチンから出来たてのプレートを持って出て来たクリスが爽やかな挨拶をくれた。

「ごめんね、寝坊しちゃって‥。」
「いいんだ。さっき僕も、ママから電話もらって起こされただけなんだから。」

何気ない挨拶を交しながら、ふとクリスの肩に目がとまる。
テロンと薄いシルクのロープの下に、張った肩のシルエットが透けて見える。
薄れかけた夕べの記憶の中、胸の上に重ねられたがっちりとした体の重さが鮮明にフラッシュバックして、思わずどぎまぎ目を伏せた。

そんな私の様子を見てクリスは穏やかな瞳で微笑むと、澄ました顔でテーブルの上のカップにコーヒーを注いだ。

 

 「さっきママから電話で、ボビーもLAから帰って来てることだし、今日今から家族で集まろうって事になったんだ。君も僕の両親に会ういい機会だと思わない?」

テーブルに着いて、フワフワのスクランブルエッグをブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 朝食, ブレックファースト, 目玉焼, タマゴ, ホットケーキ, パンケーキ, ベーコン, コーヒー, 朝, 一日の始まり, 一日のスタート, グルメ, 生活ひとくち口に頬張りながら、クリスがそう切り出した。

「えっ‥?」

まだ眠りから覚めきらぬぼーっとした頭に、突然のカウンターパンチが入る。
そう言った後のクリスといえば、私の戸惑いなど気にするでもなく、『玉子食べたら出発だからね。』なんて、もうさっさと自分のお皿を済ませ時計を見ながら外出の用意なぞ始めている。
『‥ッちょっと、あんた両親に会うって‥。』
アメリカ人の彼には、そんな『儀式』も日本人程構えた物でもないようだ。

結局楽しみにしていた、久し振りに二人っきりで過ごす『甘い週末の時間』は思いっきりボツになった。そして、そんな事にガッカリしている暇もなく、朝食がすんだ後は、お皿を洗う時間も惜しんでばたばたと部屋を出発した。

いつもは海沿いに輝いて見えるサルサリートの風景が、今日はひどく平らに見える。
いきなり朝から飛び込んで来たこの『大仕事』。
胃の中ではさっき食べた玉子とベーコンが、激しいタップを踏みながら暴れまくっているようだ。

「僕の家族は噛み付いたりしないよ。心配しないで」

ハンドルから手を離し、クリスがすっかり無口になってしまった私の頬をキュッと摘んだ。
それはそうなのだけど‥。

 

 ヨットハーバーまでやって来ると、もう先に来たお父さんとボビーが私達が着くのを待っていた。駐車場に入って行きながら、クリスが奥にとまっている大きな黒いスポーツカーを指差す。一瞬背中にゾクゾクとした物が走り抜ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ヨットハーバー, ヨット, マスト, マリーン, レジャー, サルサリート, ベイエリア, 海, 夏けた。

車が停車するのと同時に、外からボビーが助手席のドアを開けてくれた。

「ハイ、今日のご機嫌はいかが?」

ほんの少し戸惑いながら私がドアの外に出ると、クリスも運転席から降りて来た。

緊張でカチカチに固まった私の肩をすっぽりと自分の腕に包み込むと、丁度また同じように、その真っ黒なスポーツカーの助手席からゆっくりと降りて来ているお父さんの方へ向かって歩き出した。
ボビーが横で、何だか妙にニコニコしながらその様子を見守っている。

「パパ、紹介するよ。彼女‥。」

そうして目の前に並んだのは、クリスとボビーとお父さん、年とカラーのバージョン違いのそっくりな三つの顔だった。

思わず口の端が緩む。
ふっと気分が楽になった。

息子が突然連れて来たこの異国から来た女性に少し戸惑いの混った笑顔を見せながらも、お父さんは、その分厚い手で柔らかく握手を交してくれた。
まるで、サンタクロースと『船長さん』を足して二で割ったといった感じの真っ白な髭に埋もれた穏やかな瞳‥。

『クリスが年をとったら、こんな顔になるのかしら?』

少し笑ってしまうようなモンタージュ映像を、そこに見ている気分がした。

そう言えば、『小さい頃、パパが日本からのフライトのお土産に、ブリキの玩具を買って来てくれるのがとっても楽しみだったんだ。』なブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ブリキ, ブリキのおもちゃ, 玩具, レトロ, 懐古んてクリスが前に話してくれた。

今でこそ、このおっとりゆったりのお父さん、若かりし頃は国際線のパイロットとして世界を股にかけて飛び回っていたそうだ。
その影響か、その頃からクリスも朧げながら、この『東の果ての国日本』に大きな興味を感じていたそうだ。
ブリキの玩具と遊ぶ小さな『クリスぼうや』の姿。ふっとまた、口の端が緩んだ。

今日のイベントは、このサルサリートのヨットハーバーからクリスのヨットで、サンフランシスコ湾のセーリングに出かけるということだった。
海での船遊びは、まだ日本にいる頃、福岡の海ノ中道から友人のクルーザーで釣りに出たくらいしかない。当然、白い帆を張ったヨットに乗るのはこれが初めての体験で、心が子供のようにワクワクした。

 

 ゆっくりとしたスピードでヨットが湾の中に出て行くと、息子たちはお父さんの指示に合わせて、慣れた手付きで一斉に帆を張り出した。
力強くロープを引くたび歯を食いしばって力を込めるクリスの顔に、とても生き生きとした男を感じる。 いつもの疲れ果てたボロ雑巾のような姿はそこにはない。
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真っ白な補がピンと張られると同時に、ヨットはどんどん加速して、水の面を滑るように走り始めた。
湾の中程まで出ると、強くなる風と船体にぶつかり砕ける波に、ヨットは必死で自分のバランスを取るように右に左に揺れ出した。
テキパキと船の上で動き回る二人の息子たちに比べて、私といえば、『海に落ちると危ないよ。』なんて、お父さんからはすっかり子供扱いの状態だ。

その言葉に従って、皆の邪魔にならないように大人しくヨットの真ん中に座って海を眺めていると、突然船からすぐ手の届きそうな海面に、ヌーッと何か大きな物が浮かび上がって来るのが見えた。

思わずぎょっと目が釘付けになる。
まるでそれは、大きさといい形といい、何か黒い人間の頭のようだった。

『こんな所で素潜りをしている黒人がいる!』

しかしそれにしては、その頭は妙にツルツルと光っている。

もう一度よくその姿を観察してみると、それは何と‥、野生のアザラシが泳いでいる姿だった。
今まで動物園でしか見た事のなかったアザラシが、ヨットの横で気楽に泳いでいたりする風景‥。うーん、さすがカリフォルニアである。

突然現れたこのアザラシにすっかり目を奪われてしまっている私に、クリスが分厚いスエットシャツを投げてくれた。そして最後に引っ張っていた帆のロープを固定し終わると、私の横にぴったりと体をくっつけて腰を下ろした。

「寒くない?大丈夫?」

陸から離れる程に風も冷たくなって行く。さっきお父さんから下りるように注意されたヨットの縁のベンチには、今はボビーが猫のように丸まって、シャツのフードをすっぽり被って座っていブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, サンフランシスコ湾、ゴールデンゲートブリッジ, 海, ヨット, 夕焼け,夏る。

見渡す限り銀色に輝く海原の中を、ヨットは静かなシルエットを描きながら風に乗って進んで行く。

遠くには、抜けるように青い空と海の境目に、深い朱色のゴールデンゲート・ブリッジが鮮やかなコントラストを浮かび上がらせているのが見える。

何もかもが美しく溶け合う風景が、ゆっくりゆっくり後ろに流れて行く。

二時間程そうやってのんびりとサンフランシスコ湾の中を周った後、ヨットはまた、サルサリートに向かい頭を返した。

 

 船着き場が見えて来ると、今度はそこで、クリスのお母さんとジェスが船の着くのを待っていた。初めて会うお母さんは、さすがに三人の腕白坊主を育て上げたお母さん、静かな貫禄を滲ませたながら、まるで昔の学校の先生のようにテキパキと言葉を話すとても品のいいご婦人だった。

目がやはりクリスに似ている。
凛としたその姿勢の中にも、彼女の瞳だけは何故か悪戯っぽく笑っていた。

家族の顔が全員揃うと、その後は皆で、ヨットハーバーのすぐ横にある中華レストラン、『北海漁村』の飲茶ランチを取る事になった。

マリーン・ディストリクトといえば、普段ベイエリアの中でも白人が中心に住んでいる場所で、この地区でアジア系の人達を見かける事はそう多くない。しかし、この『北海漁村』はそんなマリーンの中にありながら、いつも沢山の中国人のお客さんで賑わっている。それだけ本格的な中国料理をだすレストランとして知られているようだ。

入り口のドアを入ると、まずデーンと三層に重なった巨大な水槽が私たちを出迎えてくれた。中にはまだ生きているロブスターや名前も知らない魚たちが泳いでいる。
ヨットハーバーに面した海側の壁は全面がガラス張りになっていて、ヨットのマストが所狭しと並んでいる深いブルーの海を眺めながら新鮮な海鮮中華を楽しめるようになっている。

ランチにはまだ少し早い時間だというのに、フロアーはもうお客さんで一杯に埋まっていた。
黒いスーツに蝶ネクタイ姿の姿勢のいいウエイターたちが、テーブルの間を滑るよう行き交いながらテキパキと飲茶の料理をお客さんに勧めている。
テーブルに通されると、早速私達も、その飲茶形式で運ばれて来る色んなお皿の物色に取り掛かった。

 

 程なく目の前の巨大な丸テーブルが、素晴らしく美味しい匂いに満たされたお皿で一杯になった。 その幸福な眺めに、緊張でギクシャクしていた私の怪しい動きにも、少しずつ油がまわり始める。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ディムサム, 中華料理, 中華, 飲茶, 蒸篭, グルメ, 中華レストラン, チャイナタウン
クリスの家族は、もう特別に私の事など意識するわけでもなく、各々が好きな事を話しながらお箸の食事を楽しんでいる。
ボビーのLAでの生活、クリスの仕事、お父さんの体の調子の具合‥。優しい会話が流れて行く。

時々ジェスが向いの席から手を伸ばして、新しく運ばれて来た料理を勧めてくれる。私の椅子の背に腕をまわし、いつになくリラックスした様子で話すクリスの横顔は、もうすっかり、ヤンチャな男兄弟の『あんチャン』の顔になっている。
彼の口から飛び出してくる砕けた言葉のサウンドが、とても優しく懐かしい。
ほんの少し、またクリスの秘密を垣間見た気分がした。

家族の団欒のテーブルに、ぼんやり私の日本の家族の顔が浮んで来る。
今頃日本は、蝉時雨の真只中だったりするのだろう‥。

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