HIROKO SAKAI FINE ART
- Japanese Artist in San Francisco -

San Franciscoからこんにちわ!

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エピソード14

 今度の週末は、なんとクリスのコンドにお泊まりをして、日曜日までずっと二人で一緒に過ごす事になった。


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 土曜日の夕方、以前バーベキューで訪れたプレシディオの敷地内にあるボーリング場で、今度は彼の友人がバースデーパーティーを開くという。
「日曜日は久し振りにゆっくり休みがとれそうなんだ。ボーリングの後よかったら、そのまま家に来ない?前からずっと、僕が住んでるティブロンを君に見せたいと思ってたんだ。マリーンは初めてだろう?」
今まで時間を縫うようにしてしか会えなかったクリスと過ごす初めての長い長ーい時間。照れくさいのか嬉しいのか‥、何だか心がムズムズする。

 

 そんな素敵な週末の予定にワクワクしながら、土曜日の夕方は、少し遅れて、クリスと二人ボーリング場のドアを開けた。

入り口のホールに入るなり、そこにいたロシア人の若い女性が突然クリスに飛びついて来た。 柔らかなブルネットの巻き毛がパンチの効いたメリハリ豊かなボディーにかかり、何とも艶かしい雰囲気を匂わせた女性である。
『これは強力なライバル出現か‥?!』っと焦った次の瞬間、

「ハイ、ディアナ。ボーイフレンドのパーティーのホステスご苦労さん。
オフェールはどこ?」

固まる私の背中に腕を回しながら、クリスが彼女に挨拶した。

それから、むっと花の香りでむせ返る温室を思わせる強い香水の臭いとノンストップのロシア語訛りの英語に導かれながらレーンの所までやって来ると、そこはもう、あの『アメリカン・グラフィティー』の世界だった。

ビール、ピザ、フライド・諸々に囲まれて、濃いめの化粧の彼女たちを侍らせたでっかいガタイの男たちが、子供のように馬鹿騒ぎを繰り広げている。
普段、仕事場では颯爽とエリート然したドクター達が、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ボーリング, ボーリングレーン, スポーツ, プレシディオ, レジャー, 週末そこでボーリングのボールを握った途端、突然ハイスクールのティーン・エイジャーにでも変身してしまったかのように『ウオー!』だとか『ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!』だとか、自分の投げたボールに向かって奇声をあげながら、ピンが倒れたの倒れないのとスコアに対してマジに熱くなっている。
‥いつもながら、このアメリカ人の仕事と遊びの『劇的な』顔の切り替えには感心させられる空間だ。

日頃は穏やかなクリスも、今日は何故かボールを握るとエキサイト。一つ一つのボールの流れに一喜一憂の表情を見せながら、私の事などはそっちのけで隣のブラッドと張り合っていた。

ボーリングなど、子供の頃に二、三度やった事があるだけの私にとっては、何がそんなに彼らを熱くさせるのか?全く不可解な光景だ。
隣を見ると、やはりご主人のアダムをボーリングに取られた新婚さんのメイが『借りてきた猫』状態で苦笑していた。
ちょっとおいてけぼりを喰った私達。ヒートアップする周りの空気からはほんの少し隔絶された空間で、クスクス笑いを繰り返しながら、この狂った熱血漢ウワッチングを楽しんだ。

ボーリングがお開きに近付くと、時計の針はもう十時を廻っていた。そんな時間などはお構いなしに、皆はまだ熱気覚めやらぬ様子でレーンにタムロし騒いでいる。私の事を気遣ってくれたのだろうか、ゲームが終わると、クリスはさっさと皆に別れを告げて私達はその場を後にした。

 

 ドアを一歩出ると、外はもうすっかり秋の夜の静寂に包まれていた。
ポーチを下りて、闇の中に吸い込まれて行くような小道を歩き出す。
クリスがすっと私の手を取った。

サクサクサク‥。湿った芝生を踏みながら、冷んやりとした空気の中を二人並んで歩いて行く。まだ熱をもって火照っている、柔らかく繋がれた大きな手に時々キュッと力が入る。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 星, 夜空, 満天の星その度に、つい顔を上げて言葉を待ってみたりするのだけど、クリスはニッと微笑むだけで特別なにも口にしない。

そんなことを繰り返しながら歩いて行く内に、どちらからともなくクスクス笑いが漏れて来た。

重なった手のひらから、二人の宇宙が自由にお互いの体の中を行ったり来りし始める。
力を入れたり緩めたり。ほんわり幸せな気分に包まれながら、シンと静まりかえった薄暗い小道をクリスと並んでゆっくり歩き続けた。

 駐車場まで来ると、夕方そこにあった沢山の車の影は、もうほとんど消えてなくなっていた。がらんとした真っ暗な空間に、クリスの車だけがぽつんと残っている。
周りの様子もよく見えない暗いグラウンドの中を、ざくざく砂利を踏みながら車に近付いて行く。 助手席の前まで来たところで、クリスがさっとドアを開けてくれた。

室内灯の明りがポッと灯る。
優しく目に飛び込んで来た光の温度に、何だか心がほっとした。

車に乗り込むと、クリスはバックミラーを覗き込み、小さな室内灯の下で汗に濡れてくちゃくちゃになった前髪を整えた。そして私の顔を見てバツが悪そうにニヤッと笑うと、次の瞬間、その悪戯な瞳にふっと甘い影がさした。
大きな体がシートから乗り出し、唇に柔らかい息がかかる。

「フフフ‥。」

ちょっとだけ照れて微笑んだ後は、またシートベルトを締め直し、クリスはティブロンに向けて車のエンジンをスタートさせた。

 

 ゴールデンゲート・ブリッジを越えてマリーンに渡るのは、これが初めてだった

以前から、マリーンでは、美しい海と自然がゆったりと溶け合い、サンフランシスコの街とはまた違う時間が流れる場所だと聞いていた。

その話は本当だった。

ブリッジを渡り、車がマリーン・ディストリクトのフリーウエイに入って行くと、そこからはもう窓の外に散らばった光の粒で一杯になった。
ミッドナイト・ブルーに沈む空のカンバス一面に、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 夜景, サルサリート夜景, サンフランシスコ湾夜景今にも落ちて来そうな満天の星が幾万と光を放っている。
その足元では、星たちの光で編まれたタペストリーに優しく抱き包まれるようにして、夜のサンフランシスコ湾の風景が広がっている。

対岸線を縁どって、暗い海面の上に色とりどりの長い光の尻尾を落とす幻想的な光の粒たちを眺めながら、車はスピードを上げて走り抜けて行く。

クリスが毎日見る風景。 また一つ彼の視線に近付けた。

 

 ティブロンの出口を下りてそこから丘を少し登った所に、クリスのコンドはあった。
小高い丘から遥か遠くの対岸に見渡せる光の宝石箱を一望にしながら、車はゆっくり駐車場に入って行った。

「ようこそ、僕の小さな世界へ」
エンジンの音が止まると同時に、クリスが戯けて言った。
少し弾んだその声に、幻想の世界の中に見失いかけていた時間がまた動き出す。

クリスは、まだ半分夢の世界の中で漂っている私の頬にチョンと軽くキスをすると、さっさと口笛を吹きながらトランクの荷物の取り出しにかかった。
産まれた時からここで暮す彼にしてみれば、こんな現実の生活の中にあるのには美しすぎるティブロンの風景も、別段取り立ててどうこう言った物でもないのだろう。
彼のそんな人生の時間に、少しの羨ましさを感じた。

トランクの中から、使い込んだ革の鞄と私の小さなお泊まり用のボストンバックを取り出すと、クリスはそれを両手に持って、まだ幻想の余韻から抜け出せずにいる私を促すように外から助手席のドアを開けてくれた。
彼の後ろについて、玄関に続くデッキをコトコト渡って行く。
そうしていよいよ入り口のドアの前に立った時、鍵を開けるクリスの顔にほんの少しの緊張が走った。

そう言えばここ最近、クリスとの会話の中には『やれ漂泊がどうの』とか『掃除機の調子がどうだ』とか、そんな家庭的な話題がちょくちょく顔を出していた。
今日初めて私に部屋をご披露してくれるにあたり、ここ暫くは、毎晩遅い仕事を終えて帰宅した後、一人で部屋の掃除に精を出していた様子だった。

思わず顔に微笑みが走る。

「さあ、どうぞ。」

次の瞬間、ゆっくり目の前のドアが開いた。

 

 青白い月の光に照らされて、ドアの中には、まるで山小屋の中に迷い込んでしまったようなリビングルームが静かに横たわっていた。

ごつごつとした太い木の梁が通る高い三角天井。アンティーク煉瓦の暖炉。
正面の壁一面の大きな吐き出し窓からは、そこから張り出すデッキの向こうに、まるで一枚の巨大な飾り絵をみるようにサンフランシスコ湾の夜景がキラキラ瞬いているのが見渡せる。

丘の途中に引っ掛かるようにして建っているこの建物では、寝室は全部下の階に設けられているようだ。リビングルームの端からは、階下に下りて行く木の階段が続いている。

ゆっくりと促されるまま暖炉の前の大きなソファに腰を下ろすと、クリスはマントルピースの上からランプを一つ手に取って火を灯した。

「ライトの光はあまり好きじゃないんだ‥。お腹、空いてない?」

青白い光に染まった部屋に、優しいオレンジ色の光が揺れ始める。

「大丈夫。ボーリングの間にたくさんつまんだし。」

私の言葉にクリスはにっこり微笑んで、手に持ったランプを暖炉の上に戻した。そしてキッチンに入ると、そこからチーズの乗った小さな木のトレーとワインを持って出て来た。

「これで一息入れよう。」

1995年のマルゴー。彼はなかなかいい趣味をしている。

チューリップの蕾のようにぷっくり膨んだ薄いワイングラスの中に、濃いガーネット色をした美しい液体が注がれる。それと同時に、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ワイン, チーズ若い木の樽をバラの花びらで満たしたようなうっとりする香りがグラスの口からホワンと漏れた。

「乾杯!」

ロマンティックな乾杯の後は、心地よいソファにすっぽり体を預け、『キング・ラルフ』のビデオを見ながら二人で子供のように笑い転げた。

ランプの灯が動く度に、高い天井がゆらゆら揺れる。
暖かいオレンジ色の灯の中で様々な色に変わるグラスを、何度も二人で乾杯した。

髪に絡み付くしなやかな指の動きを感じながら、ワインに痺れる幸せな頭を厚い胸にくっ付ける。
トク・トク・トク‥。遥か遠くの湾の向こうに、ちらばる街の光が見える。
大きな体に包まれながら,暖かく深い海の底を漂っていく。

 

 日曜日の朝は、ゆっくり朝寝坊をして、遅いブランチをヨットハーバーのカフェでとった。

ブランチから帰って来ると、ドアの前に一人の背の高い男が立っていた。
駐車場に入る車の中から彼の姿をのぞき見る。
顔がクリスにそっくりで、向こうも助手席の窓から顔をのブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, イケメンぞかせる私の様子を興味深げな表情で伺っている。

「ハイ、ジェス」

そうやってお互いを伺う私達を横目で見ながら、先に車を降りたクリスはその男に声をかけた。そしてそのまま助手席のドアまで歩いて来ると、私の肩に腕を回して、

「これ、弟のジェス。後一人ボビーっていうのが中にいるんだけど、彼が一番下になるんだ。」

と紹介してくれた。

その言葉が終わるのを待たずに、満面の笑顔を顔に浮かべたジェスが握手の手を伸ばして来た。

「君の事は随分前からクリスから聞いてたんだ。やっと本人に会う事が出来て嬉しいよ。よろしくね。」

柔らかい握手を交しながらその穏やかに澄んだブルーの瞳と目があうと、ほんの少し緊張で手が震えた。 モデルと役者をやっているというこのジェス。これまた透き通るように『綺麗な人』。全く神様というのはどうしていつもこう不公平なのだろう‥。

「今日はさ、久し振りに撮影オフとれたんで、天気もいいし釣りにでも行こうと思って誘いに来たんだ。ウエストマリンまでちょっと足延ばさない?」

何だか初めて会う私の緊張などお構いなしの、このあっけらかんとした気さくな態度‥。そんな所『業界』の見え隠れするジェス君だった。

そういったわけで、それからの昼下がりは三人で、ウエストマリンの湖まで鱒釣りに出かける事になった。
話が決まると、早速皆は、ジェスのバンに乗り込み出発した。

 

 湖までは、半時間程のドライブだった。途中通り抜けて行くフェアファックスの街は、季節違いの桜に似た小さな白い花で一杯に埋まっていブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 森の家, フェアファックス, マリーンた。

木立の間からはカラフルなペンキで塗られたキュートな家たちが恥ずかしそうに顔をのぞかせている。 そんな小さなダウンタウンの風景を楽しんだあと、車は湖へと続く深い森の街道へ入って行った。

湖に着く頃には、初対面のジェスともお互いすっかり打ち解けて、もう昔から知っている友人のようにくつろいだ気分で話をしていた。
『ジャパニーズって、寿司とうどんの他に何か食べてるの?』
車を降りてからは、ジェスがとばす冗談とも本気とも分らない冗談に皆で笑い転げながら、湖の畔を釣りのポイント目指して歩いて行った。

澄みきった空気の中、見渡す限り、真っ青な空と輝く緑が続いていく。
そんな雄大な景色の中を、見上げる程に長身でブロンドの『美しい』兄弟にエスコートされる気分。
‥それは案外『最高!』だとか『幸せ!』だとかそういったロマンティックな物ではなくて、

『ああここに今、到底場違いなこの自分の姿を映し出してくれる鏡という物が存在しなくて本当によかった。』

なんて間抜けな事を心から感謝してしまったりする、意外に冷静で謙虚な物だった。

 

 暫く湖畔を歩いた後は、途中から優しい木漏れ日が漏れる木立の中に進路を変えて、そこから更に水辺に沿って少し行くと、ジェスのいう『秘密のポイント』にたどり着いた。

皆で腰を落ち着けた後、今日釣り糸を垂れたのは結局ジェス一人だけだった。
クリスと私は、その鯨さえも釣らんばかりに張り切る彼を茶化しながら、波打ち際の木陰に座って時間を過ごブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 森の中の湖, 湖畔, 湖, 木立, ロマンティックな風景した。

着かず離れず優しい瞳で色んなジョークを並べながら、さっぱり当りの無いフィッシングを楽むジェスに、時々クリスがアドバイスを投げ掛ける。
すぐ森が迫る柔らかな湖畔の陽射しの中で、二人が顔を寄せ合うように釣り針のチェックを始めた時には、思わずその透き通るような姿に、昔見た映画、『リバー・ランズ・スルー・イット』の美しい風景が重なった。

 

 この日の釣果はゼロだった。

日が暮れかかる頃、皆で空っぽのバケツを持って、楽しく過ごした時間を惜しみながら湖を後にした。
今日一日、美しい湖畔の風景の中にすっぽり抱かれて過ごした時間は、何よりも贅沢で、心に沢山の栄養を貰った気がした。

今までばたばたやって来た小さな自分に、束ぬ間のお休みを貰えた盛り沢山の週末。

明日からまた,頑張るぞ!

エピソード15

 今日はまたベビーの親権を巡るコートで、遥々ヘイワードまでかり出された。
この裁判もシェルターにいる頃からのらりくらりと‥、考えてみれば、もう一年近くも時間は経ってしまっている。
『ほんとにもういい加減にしてくれないかなあ‥。』
といった所が正直な気持ちだったりする。


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ところで何故こんなにコートが長引いてしまっているのかと言うと、それもまたフレッドが、しょっちゅう何かにつけて『事』をコートに持ち出してしまうからなのだ。
結局シンプルにすむ話が、何故だか彼を通過する毎に、どんどんややこしい方向に枝葉がのびていく。

最近では、もうこの彼の執拗さにもアメリカ人のコート好きにもかなりうんざりといった所である。

まあ、途方もなくてんでバラバラの価値観をもった人々が、自己主張をぶつけ合いながら一つの社会を作っているこのアメリカでは、何か問題が起る度、こういったコートの判事のような、第三者的で絶対的な立場を持った人間が中に入って結論を出して行かなければいつまでたっても陣取りゲームの繰り返しとなってしまうのだろう。
もちろん各言う私も、こんな風にまだまだコートで侃々諤々やっているうちは、偉そうなことを言える立場ではない。

 

 さて、今回の協議のテーマは、『ベビーの週末ビジテーション・スケジュールの変更と調整』だった。

しかしまたフレッドも止めておけばいいのに、一旦ヒアリングが始まると、それにこじつけしつこく親権の変更を持ち出して来た。そしてまた飽きもせずに、私がアル中だとかドラッグ中毒だとか『どこからそんな話が出てくるの?』状態の阿呆な話をべらべら判事の前に並べ立て始めた。

今回後ろの公聴席では、すっと背の高い中国人の女性が静かにコートの様子を見守っていた。どうやらそれは、最近できたフレッドの新しいガールフレンドのようだ。
そんな彼女にアピールするかのように、スーツを着込み、弁護士よろしく大袈裟な身ぶりで得意の『お殿様理論』を繰り広げる彼の姿。言っては悪いが、それはまるでどう見ても、二流役者の下手な一人芝居を無理矢理に見せられているような感じだった。

結局、そんな阿呆らしい程にドラマティックな弁論ごっこも、『だから、それがビジテーションのスケジュールを決めるのに、いったいどんな関係があるの?』と、最後には少々苛つき気味の判事の一言で幕を下ろされた。またまた結果は『ママさんチーム』の勝ちである。
おまけに今度は、その馬鹿馬鹿しい一人芝居がかえって判事の反感を招いたようで、その後は、殆どこちらの弁護士が話す必要もなく判決はあっさりと出てしまった。

ヘイワードコートでは、最初から同じ判事が、通しで私達のケースを担当している。
今まで何度か繰り返されて来たコートを通して、もうこの判事でさえも、何やらこのフレッドの自己中心的なはちゃ滅茶加減にはいい加減呆れ気味の様子なのだ。

 

 頭痛を引き起こす程に馬鹿馬鹿しかったコートを終えてサンフランシスコへ戻るバートに乗り込むと、一瞬ぽんと気が抜けた。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, バート

窓の外に流れていく景色が、ごちゃごちゃとした田舎の風景から、少しずつ整理された街の風景に変わって行く。
車内に乗り込んでくる乗客の姿も少しづつ洗練されて行く。

空気の変化を感じながら、サンフランシスコに帰って行く自分にほっとした。

『もうあんなヘイワードなんかで、ビクビクしながら暮す自分はここにいない。』

今にも摘み取られそうな頼り無い存在の危うさは、全て過去に置いて来た。

 

 フレッドの、童顔で笑うと子供のようになる笑顔‥‥。
ヘイワードの生活にも、まだ最初の頃には沢山の優しい思い出がある。

当初は日本で始める約束だった結婚生活。結局フレッドの都合で私がアメリカに来なければいけなくなった時でも、そんな彼の屈託の無い笑顔に、これから二人で作って行く未来に何の疑問も持つ事は無かった。

それから少しの時間が過ぎて、いったい何がいけなかったのだろう‥?

段々お互いの存在に慣れるにつれて、その柔らかだった笑顔が、どんどん太々しい怒り顔に変わって行くのにそんなに時間はかからなかったような気がする。フレッドの私に対する扱いはまるでメイド以下となり、'bitch!' 'stupid!'‥三ヶ月もすると、私が何か機嫌を損ねる度に彼の口から汚い罵りの言葉が飛んで来るようになった。

仕事や外で嫌な事があると、帰って来るなり、暗くて狭いリビングのソファにドカッと座りあれこれ嫌味を並べ立て始める。そうして一通り気が済んだ後は、私が用意した食事をテーブルごと床にぶちまけて、そのままベッドルームに籠って何時間もコンピューターゲームに熱中し出す始末。そんな時私が何か声をかけようものなら、また、'shut up!' 'you don't know anything!' 'fuck!' など、途端にヒステリックに叫び出して全く手がつけられなくなってしまう。

しかしそんなフレッドも、一通り感情の爆発が済んでしまうと、次の日には花などを買って帰って来ることがよくあった。捨てられた子犬のように怯えた顔で私の機嫌を取って来る優しいグリーンの瞳を思い出す。

結局、彼も可哀相な男なのだと思う。
自分の中にある感情があまりにも大き過ぎる為に、自分でもコントロールを持て余している。

こんな風に話すとアメリカ人の友人からは、『だからあんたは甘いのよ』なんて呆れ顔で言われた。しかし、私は誰でも根本的な心の底では人を傷つける事に喜びを見い出す人間はいないと信じている。

フレッドの場合も、私に対する彼の思いが、まるで小さな子供が母親にべったりと愛情をせびり取るような形で現れてしまったのだろう。自分の求める物が得られなかった時には、地面に転がり手足をばたつかせて泣き叫ぶ子供のように、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 絶望, 家庭内暴力, ドメスティックバイオレンスそれが大人の彼にこんがらがった形で現れてしまった。
彼自身、自分のそんな理不尽な感情をコントロール出来たらと願っていたのではないかと思う。

そんな思いの中で、出来るなら二人の生活を守って行きたかった。
時間が彼の中にある不安定なものを落ち着かせて行ってくれるのだとしたら、もう少し、ジッと我慢して待ってみようと思っていた。もう既に、私達の間には産れたばかりのベビーがいた。これは何にも代えがたい、二人で生活を作って行く『意味』だった。

しかし、そんな願いも、それから殆ど時間が経つ事も無く、結局自分が幸せな偽善者でしかない事実を思い知らされる事となった。

フレッドの、そんないい時と悪い時の繰り返しの差がどんどんひどくなる一方で、私の忍耐の糸もどんどん擦り切れて細くなり、そしてとうとうある日の夕方、『ベビーの服の着せ方が悪い』と、私の首根っこを引っ付かみ体を宙に釣り上げる彼に向かって、

「もうこのままでは、あなたとは一緒にいられない‥。」

小さな声が口から漏れた。

結果それが、私達の最終幕の幕開だった。

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